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■ 学ラン花束 2 ■



 「──花束、作ってくれるか」

 夕方近くに、ソイツはのっそりとやって来た。
 鼻筋の通った顔に、三連ピアス、学ラン、更に緑の髪…花屋にこんな奴が来たら多分皆が皆忘れようがない。それはサンジも例外に有らず、だった。
 「あ、お前、この間の…」
 「次買う時来い、って言ったから」
 そういや確かにそんな事を言った気もする。しかしまさか本当に来るとは。
 「ほんとにウチに花買いに来たのか、律儀だなぁ! この間の首尾はどうだったよ? ってか、何でまた花束だ? 振られて再度アタックか?」
 「そんなんじゃねぇ。つか、この間のもそうじゃねぇし」
 飽きれた調子で言われて、サンジの顔にクエスチョンマークが飛ぶ。
 「──月命日だ」

 つ、きめいに、ち?
 
 サンジは言われた言葉が一瞬理解できなかった。よもや、こんないかにも現代っ子と言う風情の目の前のガキから「月命日」なんていう、うちのジジィが言った方がよっぽど似合う言葉が飛び出すとは到底予想がつかなかったからだ。
 「は…?」
 「だから、月命日、墓参りだ。花束作ってくれ」
 「待て待て待て! お前、この間のも墓参りか?」
 「おう」
 至極当然、と言う顔をしてガキが頷く。
 「お前、いったいどういう注文したらあんな花束になるんだよ?」
 あんな白一色のどでかい花束なんて、そうと注文しない限りは出てきっこない。
 「一番でっかい花束作ってくれって言ったらああなった」
 「…色が全部白だったのは…?」
 「ご希望の色は、とか色々分けわかんねぇ事聞いてくるから、白一色でいいって言った」

 そりゃあ言われた花屋も困ったろうよ…。
 サンジは花屋泣かせの注文をした目の前の学ランを、脱力しながらもまじまじと見つめた。学ランもぴくりとも視線をそらさない。
 そういや、コイツが前に店に来たのはちょうど一ヶ月くらい前だった。とすると、毎月毎月コイツは月命日には墓参りしてる訳か。その、死んじゃった女の子のために。
 …よっぽど好きだったんだろうなぁ。
 あんな軽口を真に受けて、わざわざウチにやってくる位の律儀っぷりだ。そうそうほかの女の子に気持ちが向くようなタイプじゃないんだろう。むしろ一生添い遂げるぜ、ぐらいの気持ちはあったのかもしれない。
 そこまで考えてサンジは思わず涙ぐみそうになった。もともと感情移入しやすい質だ。ちょっと長めの瞬きをして気を取り直す。商売だ商売。
 「わぁったよ、どんなのがご希望で?」
 「だから、でかいの」
 「…あのなぁ、墓参りなんだろ? この間みたいなでかいの持ってったって寺が迷惑だろう」
 「そうか?」
 「そうだよ。第一、なんででかくなきゃいけないんだ」
 墓参りの花っていったら多くったって仏花の10本がせいぜいだ。この間のなんかは論外だ。
 「アイツが、一番とか世界一とか目指してた奴だから、でかいほうがいいかと思って」
 「……」
 あぁ、あくまで女の子を思いやって、ね。
 「…にしたってありゃあでかすぎだ。あの5分の1でも十分でかい」
 「ならソレで頼む」
 「色は?また白か?」
 「いや…そういうの女は喜ばないんだろ? なんか喜びそうな、アンタの好きにしてくれ」
 そう言う注文のされ方が一番困るんだがなぁ…。自分の腕を見込んで、ってならそりゃあ気合いも入るが、こういういかにも丸投げってのは正直萎える。
 「んで、予算は?」
 「あー、適当に…」
 「お前な、何でもかんでも人任せにすんじゃねぇよ。2000円くらいでいいか? 高校生の財布にゃそん位がせいぜいだろ」
 それでいい、と言って学ランが頷いた。まったく、困った奴だ。
 「りょーかい。そこの椅子に座って待ってろ。5分で出来る」
 まぁ、こんな無骨そうな奴がそれだけ惚れた子だ、さぞかし素敵なレディなんだろう。
 もう見る事も適わないその子のために、腕を振るうとしますかね。


 「ほらよ、できあがり」
 「…喜ぶのか? こんなんで」
 学ランはいかにも眉根を寄せて不審そうだ。まぁ確かに、でかさを基準に考えられちゃあお手上げだが。
 「人がせっかく作ったものをこんなん呼ばわりすんな。花ってのは込められたハートが大事なんだよ、大きさやら何やらは二の次だ。第一、この俺が作った花束で喜ばないレディがいるかってんだ馬鹿」
 いかん、コイツ相手だとなんでかついつい口調がぞんざいになってしまう。客商売なのに馬鹿とか言ってしまった。
 「そんなもんか」
 しかし、学ランはまったく気にしてない様子で財布から金を取り出し、会計を済ませた。
 「まいどありぃ」
 小さい花束を、大きな手が不器用そうに持って歩いていく。
 あれが墓の前に置かれるのかと思うと、置く男の事を、死んだ女の子の事を考えると、やるせない気持ちになった。
 やっぱり、花は人に笑顔をもたらすものであって欲しい。


 「今日高校生のお客さんに作ったの…ウェディングブーケ、ですか?」
 「あ、分かった?」
 閉店間際、片付けをしながらビビが尋ねて来た。
 今日作ったのはその通り、ウェディングブーケをイメージした。ベラドンナをベース、トルコキキョウとスマイラックスをアクセントにしたクレッシェンドタイプだ。なんだかあの、背筋の真っ直ぐな奴の隣に経つなら、たおやかでしなやかなイメージのものがいいと思ったから。トルコキキョウに合わせて、リボンはブルー。自分でもベタだとは思うが、サムシングブルーにあやかりたかった。
 「その子と幸せになれたらなぁ、と思って、さ。やっぱ、好きな子が死んじゃうってのは辛いよなぁ…」
 「そうですよね…。なんか、意外で驚いてしまったけど」
 「だよな。俺もちょっと想像できない。天国で、喜んでくれてるといいけどなぁ」
 「大丈夫だと思いますよ。言ってたじゃないですか、大事なのはハートだって」
 ビビの言葉に、俺は思わず頬を緩ませた。確かに大事なのは贈る心だ。
 そして、アイツの心はきっと天国にも届いてると思えたから。


■ end.
2005/08/27



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んん、早く続きが書きたい。

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