■2


そう言えば合い鍵をそのままにしていた、とゾロが気がついたのは、不覚にもサンジがその鍵を使ってゾロのアパートの鍵を開けたときだった。
「やあゾロ」
「…何しに来た」
追い返そうと玄関先まで歩く。
着崩したスーツ姿で現れた彼は酒の臭いを漂わせていた。頬がやや上気していて、酒を飲んでいるのは明らかだ。
ゾロの剣呑な問いに、サンジはいつもの軽薄な笑みで答えた。
「決まってんじゃん、お前とセックスしに」
「…っ!失せろ!」
肩をつかんで押し出そうとした手を取られ、進行方向に強く引かれる事で大きくバランスを崩す。サンジに抱き留められる形になって、鼻をくすぐった嗅ぎ慣れたたばこの臭いに、ゾロはわずかに動揺した。
「ゾロ」
この声に、弱い。
それを自覚しているゾロは、たまらず身体をこわばらせた。
「なぐさめてくれよ」
耳朶をいやらしく舐りあげながらサンジが言う。
情欲にまみれた声に背筋をふるわせると、サンジの手がゾロのスウェットを脱がしにかかる。
「やめろっ」
「やだ」
背中を玄関の壁に押しつけられる。サンジの髪に手をかけ抵抗するが、彼の唇や手のひらはゾロへの侵略を止めない。足の力が抜け、その場にずるずるとへたり込んでしまう。
「…てめ、こんなとこで…っ」
「あれ、自分で気づいてないんだ?」
「…?」
気づくって、何をだ。そもそも俺とお前は一週間前に別れたはずだという文句を言おうとして、それはキスでふさがれた。
壁に押しつけられながら、顎を捕まれ、無理矢理口を開かされる。
無遠慮に侵入した舌は憎たらしいほどに丁寧で、いやらしく、簡単にゾロを煽る。
唇をあわせたままサンジが言った。
「おまえさ、こういうベッドじゃない場所のほうが反応イイの」
「なっ」
「今だって、ホラ、」
「っっっ」
「もうこんなだ」
得意げに言われて、ゾロは目一杯サンジを睨み付けた。
悔しい悔しい悔しい悔しい。
いつだってこの男は、自分を好きなように抱いていくのだ。
「あぅ、」
凝った乳首をシャツ越しにがじりと噛まれて、ゾロはこれから起こるいろいろを諦めた。
明日までが提出期限のレポートも、午後から入れていたバイトのシフトも、
なにもかも、めちゃくちゃだ。

サンジと出会ってしまってから。


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