かの女の白い腕が     
私の地平線のすべてでした。
          ──マツクス・ジヤコブ



■ horizon 1



長引くかと思われた宴会は早々にお開きになった。
なんだか当たり前のように二人格納庫にもつれ込み、肌を重ねる。いつもと変わらない口づけ、愛撫、熱。口数の少なさも同じ。荒い息遣いと、時折抑えきれない喘ぎ声が響くだけだ。
顔からして、もっと獣じみた体位が好きかと思えば、存外人間らしく正常位を好む。後背位に持ち込もうと身をよじったが、あっけなくひっくり返された。
せめて顔を見せまいと前で腕を組めば、それも腕をつかまれ阻止される。
「顔見せろ」
そう言いながら、ゾロの手は休む事を知らない。抗議を伝えるため両足を閉じて、間にいるゾロの腰を締め上げる。声を出そうにも、俺の喉はこみ上げる快楽を押し留めるのに忙しい。
「こ、の」
痛みに顔をしかめたゾロからすぐさま反撃された。両手を奴の右手でひとまとめにされ、奥を探る指が遠慮なく後孔を穿つ。意外なことに、やつは右利きのくせに右手より左手のほうが器用だ。皮の厚い、長く節くれ立った指でサンジの悦ぶ場所をやわやわとさする。乱暴に入ってきたくせに、その動きは優しい。

──もっとひどくしてほしい

不意に沸いた自分の思考に嫌気がして、思わず顔を背け目を閉じる。だってさっきからゾロは俺の顔から視線を離さない。自分がゾロから与えられる愛撫にどんな反応を返しているのか、こうでもしなければ全部知られてしまう。
腕から力を抜いた俺に諦めたと思ったのか、ゾロが手を離した。そのまま頬に移動して、親指で何度も唇をなぞられる。
横を向いたせいで露わになった耳に舌が這う。そこは俺の弱い場所の一つだ。耳朶を噛まれ、あやすように舐められ、また噛まれる。刺激を与えられる度にびくびくと震えるからだが厭わしい。
その間も奥の指は確実に侵食を進め、既に三本。馴れた体はその先を知っている。俺はより強く目をつむった。
目を閉じたからといって、視界が完全に暗くなるわけではない。ちらちらとおぼろげに明滅する色彩は、ゾロの指が狭隘な襞を探るたび鮮やかになる。
先ほどからどこか緩慢な愛撫に、身体が限界を訴えていた。快楽という名の火の粉が降り積もり、沸きあがる熱がサンジの全身を灼く。今日のゾロはじれったい。いつもならもうくれる頃だ。指では足りないと、奥がぐずぐずと溶けて、もっと熱い猛りが欲しいと訴える。
やりきれなさをどうにかしようと泳いだ腕が何かを掴む。どうやら奴の二の腕だ。そのままぎゅうと握り締めたことが合図になったらしい。
いれるぞ、と言う断りもそこそこに指が早急に抜かれ、代わりに圧倒的な熱さと質量がサンジを貫く。
「んぁ…っ」
待ち望んだ快楽に堪え切れず声が上がる。すでに疲れ果てた喉は力不足で、もう声を抑えることはかなわなかった。
貪欲な襞は悦んでゾロをきゅうきゅうと締め上げる。もっと奥までこいと、蠢いて誘う。
狭い襞を押し分けて進んでくる質量に身体が喜んで震えた。容赦ない突き上げに声が止まらない。
「あ、あ、ん、…あぁっ、も、っ」
快楽が腰から背筋を駆け上り、たまらずに放埓を遂げる。
「あぁ…っ」
脳みそが焼き切れるような絶頂に目の前がちかちかする。それでも揺さぶりは止まらなかった。ぎゅうと締まった肉壁をこじ開けて抜き差しされるそれに、落ち着く暇もなくまた自らの内から熱が首をもたげる。

「おい…目ぇ、開けろ」
ゾロの息もだいぶ荒い。一瞬の愉悦にいまだ朦朧としている俺は、切れ切れに言われた言葉に反抗することもなく素直にまぶたを上げた。
格納庫の薄ぼんやりとした明かりの中、ゾロの背後にランプがあるせいで表情はよく見えないが、ゾロの目が射抜くように俺を見ているのが分かる。
ぽたりと落ちる汗すら俺に快楽を与える。ひときわ大きな突き上げと同時に、奴が胴震いをして果てた。
「く…っ」
奴の喉から声が漏れ、腰を掴む手にいっそう力がこもる。きっと今、俺が一番好きな最高にセクシーな顔をしてるはずだ。
奥で感じるじんわり広がる熱を感じ、体がぞくぞくと震える。ばたりと倒れこんできた後、俺が再びもたげた熱を開放できないでいるのに気づいて奴が扱き始めた。緩やかだが力強い刺激に素直に身を委ねる。大きな手のひら全体で何度か往復した後、親指がくるくると先端を責める。一度出したものがぬるぬるとまとわりつき、与えられる感覚はひどく刺激的だ。
もっとその手を味わっていたくて快楽を引き伸ばそうとさまよわせた視界に、隆々としたゾロの腕が入った。首筋から肩、二の腕にかけて、無駄なく滑らかについた筋肉。思わず手を伸ばしてその輪郭をなぞった。隆起する稜線は連なる山々を連想させ、なぜか地平線とイメージが重なった。


今この俺を取り巻く地平線、この腕は、明日旅立つ。

この腕で世界を獲りにいく。


速さを増したゾロの手の動きにせりあがってきた衝動を押しとどめることなく、サンジもまた逐情を果たした。

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