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■ 本日はお日柄も良く 2




「あーん、やっぱりサンジ君の料理最高v」
「ふめぇふめぇ!」
「ルフィ、口にもの入れたまま喋るなよ!」

結局、その後すぐに到着したルフィ一行によって、突然のプロポーズはひとまず横に置かれた。
ただいまゾロの部屋は弱肉強食の戦場と化している。
「そういえばゾロ、あんたサンジ君の料理食べるの初めてよね。超美味しいでしょ!」
既にご機嫌なのはナミだ。珍しくチューハイ5本程度で浮かれている。
「あぁ、旨ぇな」
「サンジの料理はいつだって旨いぞ!」
ホントに旨い。食に頓着しない俺でも、これなら金払ってでも食いてぇな。
とりわけ、この揚げ出し豆腐なんか絶品だ。さっきから隙あらば奪おうとするルフィの手からは断固死守すべく、必死の攻防が続いている。
…?
ふと視線に気づいて顔を上げると、サンジがちらちらとこっちを見ているようだ。
まあ、いきなりあんな事言われちゃあな。正直、ルフィたちが来てくれて助かった。自分でも何であんな事言ったのか、よく分からん。なんだか口からぽろりとこぼれてしまった。普段考えてから物を言うタイプのゾロとしては珍しい事だ。
とりあえず視線は努めて無視する事にして、目の前の皿に視線を戻すと、揚げ出し豆腐はきれいさっぱり無くなっていた。
ルフィ…手前ェ、食い物の恨みは恐ろしいって知ってるか?
仕返しの手始めにルフィのエビチリ皿ごと奪うあたり、俺もまだまだ修行が足りねぇ。



その週の水曜日、俺はサンジがやっているという定食屋に赴いた。何でも、レストラン辞めて実家であるそこに戻ってきたらしい。
場所はウソップに聞いた。ナミなんかに聞いたら根掘り葉掘り聞かれたあげく金まで取られそうだ。
駅からほど近い場所にその店はあった。大通りの商店街に面していて、方向音痴の自分にも分かりやすい。
(それでも、常人なら5分で着くところをゾロは15分かかった)

暖簾をくぐった先は、夜7時半という時間のせいかなかなかの盛況ぶりだ。パッと見たところ、空いてる席はカウンターしかない。木造の年季が入った店内は、いかにも町の定食屋といった気取らない雰囲気がする。
「いらっしゃいま、せー…」
店の奥から聞こえた、最初威勢良く、そして急激に尻すぼみになった声に顔を向けると、びっくりした顔のサンジがいた。相変わらずきんきらきんの頭に着物と割烹着、手には丸いお盆というミスマッチぶりが、そう明るくない店内でひときわ目立っている。
「てめ、なんで」
言いかけたサンジに怒号が飛んだ。
「くぉらチビナス!何ボーッとしてやがる!とっととお客さん案内しやがれ!」
「っうっせーよクソジジィ!お客さん!こちらへどうぞ!」
荒々しい足取りで空いていたカウンター席に通される。いきなりの怒声の応酬にゾロは内心目を丸くしたが、周りの客はどこ吹く風。むしろニヤニヤ笑ってあからさまに楽しんでいる雰囲気だ。どうやら日常茶飯事らしい。
「いやー、サンちゃん今日も元気だねぇ」
「料理長も素直じゃないんだから」
「ねぇ!戻ってきて嬉しいくせに」
なんて声がちらほら聞こえる。とりあえず、あいつの口の悪さは遺伝のようだ。

「ご注文は?」
ゴン、と音を立ててサンジが水とおしぼりを持ってきた。いささか乱暴におかれたそれに、カウンター越しのジイサンの目がギラリと光る。
おっかねぇジイサンだな、オイ。
「あー、とりあえずビールと、鯖味噌定食。あと、この店何時に終わる?」
「…9時」
いかにも不機嫌そうな声だ。
おまけに、俺らのやりとりに周りの客が興味津々なのが肌で分かる。
「じゃ、それまでいるから、日本酒と適当につまみも」
「…かしこまりました」
待つのを断られなかった事にいささかホッとして、俺はようやくネクタイをゆるめた。

程なくして出てきた鯖味噌は絶品だった。
だいぶ分厚く切られた鯖の身は、それなのに中までしっかりと味が染み込んでいて、がぶりとやると口の中にじゅわりとたまらない味が広がった。身の薄い端の方なんかもうとろけそうだ。それでいて、中骨──これは俺が鯖味噌の中で一等好きな部分なのだが──はコリコリと口の中で存在を主張する。
今まで食べたどの鯖味噌より相当旨ぇ。
この店に来る経緯を思わず忘れるくらい、食う事に没頭してしまった。
「あー、旨かった」
食べ終わった後、思わず声が漏れてしまう。カウンター越しのジイサンの空気が、ちょっと緩んだのが分かった。

「じゃあなサンちゃん、また明日」
「毎度ありーぃ」
8時を過ぎる頃から客はバタバタと帰りはじめ、8時半には俺以外誰もいなくなった。
…統制がとれてるというか何というか。
まぁ、気を利かせてくれたのはありがたいが。
しまいにはジイサンまで気を利かす始末だ。
「おいチビナス、俺ぁもう上がる。後は任せた」
「は?まだ30分も前だぜ?」
「どうせもう今日客は来ねぇよ」
前掛けを外しながらそう言うと、さっさと奥の階段を上がっていってしまった。
店の中には、俺とサンジの二人だけが残された。
仕方なさそうにカウンターに入ったサンジが、残り少なくなったつまみを見て新しいのを出してくる。
かちゃり、と器を整理する音がやけに大きい。
沈黙が落ちる。


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