■ 本日はお日柄も良く 3



口火を切ったのはサンジだ。ぶっきらぼうな口調で、つとめて事も無げに。
「プロポーズされたのなんか、初めてだ」
なので自分も、ぶっきらぼうに、事も無げに。
「俺も初めてだ」
だいぶ温くなってしまった冷やの日本酒をちびりと飲む。
「…そうなんだ」
「当たり前だろう」
「いや、だってアンタあまりさらっと言うから、見かけによらずたらしなのかと」
「たらされたか?」
からかい混じりにそう言ったら、とたんに奴の顔が真っ赤になった。
「っんなわけねぇだろ、このクソ野郎!てゆーかてめぇ、いきなりプロポーズとは何事だ!大体俺の年とか知ってんのかよ」
しかしさっきからコイツ、この言葉遣いはなんとかならねぇのか…?まあ、あのジイサンが保護者ってんなら納得できる気もするが。
知らねぇな、と言うとサンジはほれ見たことかという顔をする。
「いくつだ?」
「27」
「…若く見えるな」
23、4かと思っていた。
「よく言われるよ。アンタは?」
「同じだ」
「は? え、って、27!? マジかよ!  えー、30過ぎだと思ってた!」
「…よく言われる」
とりわけナミあたりに。何でアンタそんなに老けてるわけ? だの、こういう奴に限ってむっつりスケベだったりするのよねー、だの。余計なお世話だと思う。が、口でナミに敵わないのは分かりきっているので、うるせぇな、と言うに留めるのが常だ。それにしたって、10倍になって帰ってくるのだが。
目一杯驚いた顔をしたサンジから、へぇー、同い年かよ、まあ老け顔は年取ってから若く見えるからな、気にすんな、という慰めをもらった。

「それにしても唐突だったよなぁ、何なのアレ。アンタさぁ、」
「ゾロだ」
何か言いかけたサンジを遮って言う。
「え?」

「俺の名前はゾロだ」

そう言うとサンジはちょっと笑った。
…そういう顔すると可愛いな、お前。
サンジはその笑顔のまま、1音ずつ区切るようにゆっくりと、ゾロはさ、と言った。
その音を紡ぐ唇は、化粧っ気もないのにほんのりと薄紅色だ。
「なんでいきなりプロポーズしたの?」
核心を突く質問に、俺はしばし答えに窮した。
眉毛が変、というのはさすがに答えにならない。自分でもそれが理由じゃないのは分かってる。
じゃあ、何でだ。
目の前の食いかけのタコわさびをじっと見つめて、質問への答えを探した。
ようよう考えて、漸く俺は顔を上げ口を開ける。
「…お前の、」
「サンジ」
出鼻をくじかれて言葉に詰まる。
「俺の名前だよ」
そう言った目の前の女は、さっきとはまた違った笑顔をしていて。
例えて言うなら、今すぐその生意気そうな唇を塞ぎたくなるような。
とたんに俺はさっき自分が言った台詞の恥ずかしさを自覚した。血液が頭に上り、耳まで赤くなったのが自分でも分かる。
「…サンジ、の、」
たった三文字を言うのにものすごく勇気がいった。

「サンジの顔をずっと見てたいと思ったからだ」

こんな恥ずかしい台詞を、目を逸らさずに言えた自分を偉いと思う。
「ふーん」
サンジの顔はますます小憎たらしい。完璧なる劣勢に負けてなるものかと、せめて眼光を鋭くする。
「じゃあさ」
知らず喉が鳴る。固唾を飲んで宣告を待つ俺に、それはさらりと告げられた。
「結婚しようか、ゾロ」
カウンターから顔だけちょっと近づけて言う奴の、細められた目。その奥の、いたずらっ子のような猫のような、キラキラした瞳に、あぁ、俺は一生コイツにゃ勝てねぇな、と自覚した。
「…いいのか?」
「ゾロが言い出したんだろ? 俺は、お前が一度言い出したことを引っ込めるような奴には見えないんだけど…?」
冗談めかして言うその口調にわずかな恥じらいを感じ取り、俺は意を決して姿勢を正した。背筋を伸ばし手を膝の上に置き、腹の下に力を込める。
──先手必勝。
「改めて言う。俺と結婚してくれ」
サンジはその言葉にやや目を見はり、この間のようにまじまじと俺を見る。
目は逸らさない。その大きな青い目に浮かぶどんな色も見落とさないように睨みつける。
そんな俺に、目の前の顔がふわりと微笑んだ。
「…しょうがねぇな、受けてやるよ」
その顔は少し恥ずかしそうな、でも満面の笑みを湛えていて。
──クソ、邪魔だなコレ。
目の前のカウンターさえなければ、とっくに抱きしめてるところだ。
まあ、今日のところはサンジの答えに満足して、ニッカリと笑ったゾロだった。


■ end.
2005/06/23





ワンゼの「変な眉毛」発言から、そうだよね、やっぱワンピの世界でもあの眉毛は注目に値するのよね!っと変なとこに反応して一本出来ました。
えーっと、いちおうニョタイなんですが、ニョタイの風上にも置けませんね。せっかくニョタイならニョタイらしくもう少しいかせる設定にすれば良かったなー。次への課題としたいと思います。(次があるのか?)

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