■ 本日はお日柄も良く 1




ぴんぽーん

滅多に鳴らない玄関の呼び鈴が鳴った。
珍しい事もあるもんだ、と思いながら覗き窓を覗くと、陽光に照らされたきんきらきんの色が飛び込んでくる。

そういや、今日だった。

うっかり忘れていたが、今日はナミの誕生日。例年の事ながら皆でお祝いしようという事になり、今年はゾロの家に白羽の矢が立った。
一人暮らしの1DK。そうそう広いわけでなく、今日来る予定の人数がせいぜいMAXだろう。例年通りのルフィの家でもウソップの家でもなく、ゾロのアパートが選ばれた理由はただ一つ。
キッチンが広いから。
ゾロのアパートについているキッチンは、一人暮らし向けのアパートにしてはいやにでかかった。シンクは広く、コンロは3つ、グリルもちゃんとついている。
なんでも大家の信条らしかったが、自炊は全くせず、駅から目の前という立地条件のみでこの物件に決めたゾロにとっては無用の長物以外の何物でもない。

「おじゃましまーす」
多少遠慮がちに入ってきたのもつかの間、半袖の黒いTシャツにジーンズというラフな出で立ちのきんきらきんは、大量に持ち込んだ食材と鍋釜の類を無遠慮に広げていく。
うわ、ホントに何にもねぇ。念のために持ってきておいて良かったー、だの、なんだこれ、酒しか入ってねぇじゃん! ワインセラーかよ? だの、一人なのに随分にぎやかである。
「そいじゃ、勝手に使わせてもらうぜ。出来るまで邪魔だから座ってろよ」
粗方の仕分けが終わったらしいきんきらきんは、手早くエプロンを付けながらそう言うとキッチンに向き直った。言われたゾロはありがたく部屋に戻って胡座をかく。もとより料理など手伝えるはずもない。
がさごそと音を立てつつ興が乗ってきたのか、きんきらきんは程なく妙な歌を歌い始めた。
「♪ま〜っし〜ろフラミンゴー、べ〜にい〜ろフラミンゴー♪」

…変な奴。
そういや、眉毛も変だったな。

彼女のくるくる巻いた眉毛を思い出す。会ったのが今日で2回目とは思えないほどぞんざいな口調で話しかけられているが、彼女はれっきとした女性である。初めて会ったのはほんの2週間前だ。
はっきり言って最悪の初対面だった。
今日のパーティの打ち合わせのためナミと待ち合わせしてた日だ。
いつもなら電話で終わる用事が(ゾロは携帯メールに返信しないため、連絡手段は専ら電話である)、「会わせたい子がいるから」という理由で夜の待ち合わせになった。珍しく予定時間5分前に待ち合わせ場所に着いたゾロがナミと話をしていると、横からいきなりきんきらきんが飛び込んできた。
「っんナミさ〜ん!お待たせ!遅くなってゴメンね! …で、クソ野郎はとっととどっか行きな。ナミさんに声かけようなんて100万年早ェんだよっ!」
いきなりのガン付けに、久々にカッチ〜ンと来たゾロも「なんだテメェは」と応酬し、ナミに仲良く拳骨を食らうまでそれは続いたのだった。
要はきんきらきんことサンジという女がゾロをナンパと勘違いした末の騒動だったのだが、第一印象が悪い事に変わりはない。
おかげでしばらく頭に血が上っていたため気づかなかったが、ナミと3人で食事をするうちに、彼女の眉毛が渦巻いてるのを発見した。
気づいた当初はしばらく目が離せなかった。

だって、巻いてるのだ。眉毛が。

伸ばした前髪で隠された左目とは反対の、あらわになっている右側の眉毛が巻いている。
少なくともゾロは今まで生きてきた中でそんな眉毛をした奴に出会った事はない。
思わず酒を飲むのも忘れて見つめてると、「何人の事ジロジロ見てんだ、クソ野郎」との言葉が投げかけられて、また騒動に発展しかけた。それをとめたのももちろんナミだ。

で、今ゾロの部屋で今日のパーティの料理を作ってるのが件のサンジである。何でもサンジはちょっと前までどっかの大きなレストランでコックをやっていたらしく、今回の役目を買って出たのだ。ウェディングプランナーであるナミとはそのレストラン時代に知り合ったそうで、結構長い付き合いになるらしい。最近地元に戻ってきたのをきっかけにちょくちょく会っていたらしく、今回集まるメンツの中でサンジと会った事がなかったのはゾロだけだ。
そうこう考えているうちに、目の前にどんどんと料理が並んでいく。手間のかかる物はあらかじめ作ってきたようで、さして広くもないテーブルの上はあっという間に和洋中の料理で埋め尽くされた。よくこんなに作れるもんだ。まあ、どれだけ量があろうとルフィにかかっちゃひとたまりもないが。
「第1弾としては、とりあえずこんなもんかな」
エプロンを外しながら隣に立ったサンジが言う。もう準備が出来たらしい。
「ナミさん達そろそろだよな。今何時だ?」
そう言ってこっちを見た奴の眉毛はやっぱり巻いている。
…変な眉毛。

「アンタ、俺と結婚しねぇか」

「は?」

びっくりしてこちらをまじまじと見たサンジの目はまん丸く開いている。
その顔を見ながら、やっぱり変な眉毛だなぁ、コイツ、とゾロはしみじみ思った。


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ちなみに、サンちゃんが歌ってる歌は実在します;

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