*第二幕

案内された部屋は上等な作りでした。
酒とつまみを運んできた童子が下がってしまうと、部屋には二人きり。
サンジは落ち着かない様子で、大変居心地が悪そうです。
「あ、酒、飲むか?」
女将が聞いたら目を剥きそうな言葉遣いですが、ゾロはそのあたりも好ましく思いました。
ととと、と静かな音がして、お猪口に透明な酒が注がれます。
「お前って、あ、ゾロ様って、虎族の若様だったんだな」
「ゾロで構わん」
「え、でも…」
「いいんだ、どうせ今日は付き合いだから。堅苦しくない方が良い」
「付き合いって?」
「今日は俺の誕生日でな」
「へえ、おめでとう」
目を丸くしてサンジが言いました。
「あぁ、それはいいんだが…親父が茶屋遊びが好きでな、今日一日遊んでこいと」
「そんなのに俺を選んでいいのかよ」
「堅苦しいのは好きじゃないからな。男を抱いた事ぁねぇし、取って食う気もねぇから、お前もくつろげ」
そう言うとサンジはいささかホッとした様子です。
先ほどから緊張して膨れていたしっぽが幾分落ち着きました。
「それより、無理言って悪かった。お前は花じゃないのか?」
先ほどからの疑問を尋ねると、サンジはきまりの悪そうな表情をしました。
「花には違いないんだけどよ…ちょっとあれだ、問題おこしちまって、謹慎食らってたんだ」
「そういやさっきも追っかけられてたな」
「いや、アレとは関係ねぇんだけど」
口ごもるサンジにこれ以上踏み込むのはやめて、ゾロは話題を変えました。
「さっきはお前の身のこなしに驚いた。なにかやってたのか?」
「あぁ、ここに来る前に」
虎族はその武で名を馳せた一族です。幼い頃から武芸を嗜み、その力量は若い頃の頭領以上、と噂されるゾロは、油断していたとはいえ自分をいいようにあしらったサンジに人並みならぬ関心を抱いておりました。
サンジは問われるままに自分の習った武術を話します。
育ての親が昔名の知れた使い手だった事。
戦う様に憧れて一人でこっそり練習していたら、たまに思い出したように教えてくれた事。
楽しそうに喋るサンジの表情は時折陰り、遠い昔を懐かしんでいるようでした。

ゾロは相づちを打ちながら、そんなサンジを見ていました。
行灯の光が優しくサンジを照らします。
やはり、見目のいい男です。
ともすれば冷たい印象になりがちな端整な顔立ちには、渦巻いた眉毛が愛嬌を添えています。くるくると変わる表情は見ていて飽きる事がありません。
感情に合わせてよく動く耳も微笑ましく、今までオスを抱こうと思った事はないのですが、サンジのほっそりした白いうなじは思わず舐めたくなってしまう色気を持っていました。
大人びた顔立ちの割に、言動がやや幼いアンバランスさもゾロの興味をそそります。

そう明るくない部屋の中で、サンジの金髪と青い目はひときわ輝いて見えました。

年頃が近いせいかだいぶ打ち解け、話はあっちこっち行きつ戻りつ、無口と言われるゾロにしてはいつもの倍も喋ったような気分です。
時が経つのも忘れ、いつの間にか月も中天にさしかかろうかという夜半になっておりました。
話の合間にサンジはぽろりと、客を取った事がないと言いました。
ここに来たのはつい最近で、客を取ろうとして問題を起こしたと言う事です。
それを聞いた瞬間、処女、という言葉がゾロの脳裏に浮かびました。
そう言えば、あの独特な郭言葉もサンジには身に付いておりません。
あまり花らしくないのはそのせいか、とゾロは納得しました。

「あ、酒空になっちまったな。おかわりいるか?」
「あぁ、頼む」
そう言ってサンジが背を向けたとき、ぱたりと揺れたしっぽにゾロの本能が刺激されました。
ここの部屋の本来の用途を思い出すと、もういけません。
「ひゃっ」
サンジがビクリと震え、手にした銚子を取り落としました。
ゾロがサンジのしっぽをつつ、と。
それはそれはつとめて、性的に触ったのです。
「な、なにすんだ」
「いや、どうもな」
とっさに顔だけ振り返ったサンジをぐいと後ろから抱きとめます。
「おまえのしっぽ見てるとムラムラする」
耳元に吐息とともにそう囁かれて、サンジの体が震えたのがゾロにも伝わりました。
「な、何にもしねぇって、言ったじゃねぇか」
とまどいがちにそう言い、あらがおうと身を捩るサンジを後ろから押さえ、その間にもゾロの指はおとがいをたどり、歯が耳をかりりと甘噛みします。
また、サンジの体が震えました。
「とって喰いやしねぇ、って言ったんだ」
さすが約束マニアの呼び声も高い次期頭領・ゾロ様。
ご自分の発言にはきちんと責任をとられるようです。
「ひ、ひでぇ…!」
サンジのそしりもどこ吹く風、ゾロは手を休めません。
「お前、花なんだろう?」
うなじにカプリと噛みつくと、そのまま肉厚の舌でべろりと舐めあげます。
その言葉に観念したのか、サンジの抵抗がやみました。
身体は未だこわばったままです。
情けなくしおれてしまった耳を、毛をなでつけるようになぞります。
中が弱いのか、指を入れる度に身体がふるりと震えました。
「ん…っ」
もう片方の手はしっぽを、こちらは毛を逆立てるようになで上げてゆきます。
艶やかな金の毛は滑らかで、ゾロの手のひらをたいそう楽しませました。
先ほどからがっちりと身を堅くしているサンジは、既に可哀想なくらい全身を真っ赤に染めています。
本当に客を取ったことがないのでしょう、着物の裾をぎゅっと握りしめて愛撫に耐える様は、否が応でもゾロの嗜虐心を刺激しました。

処女は面倒臭いっつうから今までヤッた事ぁなかったが、こりゃあ楽しいもんだな。

昼間あれだけ元気の良かった青年が、今は歯を食いしばって顔を真っ赤に染め、目を開けることもままならない様はたまりません。
表情がよく見えるよう、身を縮こまらせるサンジを持ち上げて自分の膝の上に乗せました。
練り絹のようになめらかな肌や、行灯のわずかな光にも輝く金の髪がゾロを煽ります。
着物の袷から手を忍び入れると乳首を探り当て、押しつぶすように転がすと、少しずつですが芯を持ち始めました。
「…は、あぁ…」
「固くなってきた」
意地悪く言うと、いやいやをするように身をよじりました。
きゅっとつまんでやると、耐えきれぬように吐息を溢します。汗ばんだ身体は指の滑りを良くしてよりゾロを楽しませました。
肩から首、耳にかけてを、時折甘噛みしながら何度も舌でなぞります。
手を差し入れたせいで乱れた胸元に、赤く凝った小さな飾りが見えました。
隣の部屋に敷いてある布団に移ることなく、畳の上で事を進めようとする自分を急いてるな、と自嘲しながら、ゾロは自分を止める事が出来ません。
サンジの下肢に手を伸ばすと、サンジの身体が震えました。
閉じようとする足を無理矢理開かせて、幾分手荒に目的の物を掴みます。
サンジの性器は既に兆していました。
「あ、あ…っ」
緩く扱いてやると、あえかな声が漏れます。
うわずった、情欲をそそる声に、ゾロも自らが高ぶるのを感じました。

それにしても、なぜこんな上玉がいまだに客をとっていないのでしょうか。
金髪碧眼に合わせてこの整った目鼻立ち。
口の悪さを差し引いてもお釣りがくるほどです。
郭事情に疎いゾロでもサンジが相当上玉に当たることは分かりました。
とりわけ、あのきれいな青い瞳。
まるで湖のようなあれはまるで吸い込まれそうな色をしています。

昼間見たあれをもう一度見たくなって、サンジの耳元に口をよせました。
「なぁ、目ぇ開けろよ」
その声が聞こえたのかどうか、サンジのまつげがふるりと揺れました。
首を後ろに回して、戸惑いがちに開かれたまぶたのその先には、昼間見たときよりもさらに深い青。
上気して潤んだせいで、ゾロにとってはより暴力的でした。
高ぶっていた熱が更に鎌首をもたげます。

──これはもう、頭の先からつま先まで、残さずに食べてやろう。

目尻にたまった涙を吸いながら、ゾロがそう思った時でした。
それまで震えるばかりだったサンジが「も、もう駄目」と言ったか言わないか。



ぽぅんという音とともに、サンジは狐の姿になってしまいました。





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2005/11/09




ゾロ、おあずけ。




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