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■ Only you ■

*第一幕

じゃり、と音を立てて地を踏みしめ。
大門を通り抜けたならそこはもう吉原、言わずと知れた歓楽街。
日が落ちて一刻を過ぎた今はどの店にも明かりが灯り、その雰囲気をより一層華やかにしています。

さて、誰もが浮き立つようなその中で、憮然とした表情をした男が一人。
たった今大門をくぐったこの男は、名をロロノア・ゾロと言いました。
「いやぁ、コレが吉原かぁ!」
「楽しみっすね、ゾロの兄貴!」
期待に満ちた声を上げたのはゾロの舎弟分、ヨサクとジョニーです。
初めて吉原に足を踏み入れた二人は既に興奮しきり。
ゾロはそんな二人を横目で見ながら、わざとらしくため息をつきました。
「まーだごねてんですかぁ、兄貴?」
「せっかくミホーク様がお膳立てしてくれて、只でお茶屋遊びができるんですよ!行かなきゃ損ですって!」
おまけに、今回はゾロが途中で逃げないように、とお目付役を任された二人も共に遊べるのです。二人が浮かれるのも当然でした。

ジョニーの言うミホークとは、ゾロの父親の事です。ジュラキュール・ミホークと言えば虎族の長であり、ここ吉原では名の知れた艶福家。
そのミホーク様、ご自分の息子であるロロノア・ゾロがちっとも吉原通いをしないことをたいそうお嘆きになっておりました。
曰く、あれは粋というものが分かっていないと申されたとか。
そのため、ゾロの誕生日祝いという名目で今日の日が用意されたのです。
もっとも、吉原になぞ通わなくても、れっきとした虎族の次期頭領であり、その男ぶりのある容貌も相まって、遊び相手には事欠かないゾロにしてみれば、今回の件は大きなお世話と言えました。
そのため今日のゾロは朝から不機嫌で、ピリピリと逆立つしっぽの毛を隠そうともしません。
まあ、いつも自分に懐いてくれている弟分達が非常に楽しみにしてることは一ヶ月も前から重々承知していますので、今回は付き合ってやるだけの事。この一回こっきりだ、と我慢して歩くゾロに、知らず周囲の視線が集まりました。
悠然と歩く美丈夫は、一度も歩いた事のない道をまるで自分の庭の様に進みます。
尾は黄色と黒の縞模様、頬には鮮やかな黒い墨。紺地を白く染めぬいた着物を着た青年は、一目で虎族と分かる外見でした。

さて、突然ですが、このロロノア・ゾロ。とんでもない方向音痴でした。
ヨサクとジョニーは、今回ほぼ道案内のためだけにゾロに付けられたと言っても過言ではありません。
その証拠に、今日も二人の後ろを歩いていたつもりが、いつの間にかはぐれておりました。

二人の姿が見えないのをいぶかしく思いながら、まあなんとかなるかとゾロはあてどなく歩き始めました。この辺り、ヨサクとジョニーが「迷ったらそこから動かないでください!」と何度言っても学習効果がありません。
ふらふら歩いていると、不意に背後が騒がしくなりました。
なんだ?と思って振り返った、その瞬間。
視界が金色で覆われたかと思うと、ゾロはあっという間に路地に引っ張りこまれてしまいました。

視界を覆うのは、金。

稲穂のような流れんばかりの色を湛えた黄金色。

そして、目の前の、深い蒼。

ゾロの気に入りの、山奥にある湖と同じ色です。
深い森の中にぽっかりとあるその湖は、そこに暮らす一族の中でもゾロしか知らない秘密の場所でした。

「悪い、ちょっと匿って」
気づけばゾロはその湖を壁に押しつけるような形で立っていました。
一瞬意識が飛んでいたゾロがよく見れば、湖ではなく青年です。
年の頃はゾロと同じくらいでしょうか。
耳としっぽの形から判断するに、どうやら狐族のようでした。
ゾロがさっきまで歩いていた大通りを、何事か言いながらバタバタと駆けていく音がします。
それを遠くに聞きながら、ゾロは目の前の青年に内心驚いていました。
いくら気を抜いていたとはいえ、自分がこうも上手くあしらわれようとは。
常人ならゾロに触る事すらできないはずです。
足をかけられ体を崩された事は分かりましたが、その足がどこからどう伸びてきたものか、ついぞ確信が持てません。こんな感覚は数年ぶりです。
目の前の青年は体つきこそひょろりとして細っこいですが、相当の手だれのようでした。

近くを何度か行き来していた足音は、やがて遠く離れ、聞こえなくなりました。
青年は耳をひくひくと動かして様子を探っています。
「…行ったみたいだな。悪かったな、巻き込んで」
肩口にあった青年の顔がすいと離れていきました。
改めて全体を見てみれば、随分と容姿の整った男です。この界隈の芸妓の一人でしょうか。
流れる様な金の髪に、透き通る様な青い瞳。
すらりと通った鼻筋に薄い唇。
ともすれば冷たい印象を与えがちなその美貌に、なぜか先が渦巻いた眉毛が愛嬌を添えています。
「詫びに茶の一杯でも奢りたいところだが、あいにく今日は時間がねぇんだ」
「いや、構わねぇよ」
「アンタは今日花に会いに来たのかい?」
花とは芸妓の事です。別段買いたくて買いに来たわけではないのですが、説明するのも面倒なので、ゾロは頷くだけにとどめました。
青年はせいぜい楽しんでくれ、と言うと慌ただしく去ろうとします。なんでも、今日は大口の客が来るのだとか。
客が来る、と言う事はやはりこの青年も芸妓のようです。
くるりと背を向けた青年の金糸が、夜目にも明るく輝きます。
ゾロはその手をとっさに掴んでいました。
青年の驚いた目を真っ直ぐに見てゾロは問いました。
「お前、名は?」
「…サンジ」
「見世はどこだ?」
「扇屋だけど」
その名を聞いて、ゾロは知らず笑みを作っていました。
扇屋と言えば、今宵ゾロが行く事になっている見世の名に他ならないからです。
「引き留めて悪かったな」
「いいや、こっちこそありがとう。じゃあな」
そういうとサンジは今度こそ去ってしまいました。
その後ろ姿を見送ったゾロの耳に、ヨサクとジョニーの声が届きました。
ゾロを探しているのでしょう。
「おーい、ここだ」
「あ、兄貴! 迷ったら動かないで下さいって言ってるじゃないですか!」
「迷ってねぇ」
『迷ってます!』
ヨサクとジョニーが声を揃えて言いました。

兄貴は自分が方向音痴って自覚をもっと持って下さい等と文句を言われながら、ようやく扇屋に着きました。
さすが吉原一の大店、店構えも豪奢なものです。
見世にはいると、一行は奥の一室に通されました。
少々待たされたあと、別の部屋へと案内されます。
廊下を抜けて、すう、と音もなく襖が開かれると、そこは色の洪水。
あでやかに着飾った何十人もの美姫が頭を垂れてゾロを迎えました。
「ミホーク様より仰せつかっております。この中からゾロ様お気に入りの花をお選び下さい。一人と言わず、二人、三人でも宜しゅうございますよ」
案内したこの見世の女将に言いました。
一番手前の中央に、ひときわ目立つ鼻筋の通った黒髪の女がいます。
この見世一番の花の、ロビンでしょう。ミホークの愛妾でもあります。
見るのは初めてでしたが、なるほど、あの親父の好きそうな風貌です。
面を下げながら、深みのある笑みを浮かべています。
部屋をぐるりと見渡しますが、目的の物が見えません。
「女将」
「はい、どの花が宜しゅうございますか」
「この見世にサンジってのがいるはずだが。金髪の」
「は、サンジでございますか」
驚きもあらわに女将が言います。
「いるのか?」
「おりますが、でもゾロ様、」
「俺はアレが良い」
「でもそのぅ、サンジは甚だ不調法でして…」
「別に構わん」
横でヨサクとジョニーもあっけにとられていましたが、ゾロはそんなの知ったこっちゃありません。
お前らは早く決めないのか?と言う問いに、慌てて同じく驚いている花たちに目を向けます。
しばらくバタバタと走り回る音がしたかと思うと、一人の男が連れられてきました。
サンジです。
「あ、テメェさっきの」
「テメェとはなんです!サンジ!」
とたんに女将の叱責が飛びます。
「ゾロ様、こちらのサンジで相違ございませんでしょうか」
「あぁ、間違いない」
分かりました、と女将は言って、サンジに目線を合わせました。
「サンジ、こちらは虎族頭領ジュラキュール・ミホーク様のご子息、ゾロ様です。どういったわけか今日の花としてお前を所望しておられます。くれっぐれも失礼のないように」
驚くサンジを脇に置いて、女将はゾロに向き直りました。
「ゾロ様、この通りふつつか者ではございますが、今宵はどうぞよしなによろしくお願い致します」
頭を下げる女将はなかなか肝の据わった人物のようです。
ゾロは満足して頷きました。
「おぉ、無理言って悪かった。案内してくれ」
そう言ってさっさと歩き出します。
案の定、ゾロ様、こちらですと呼び止められましたが。
突然の事に驚く人々のなか、ロビンだけが笑みを湛え、面白そうに虎族の若君を見送っておりました。





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2005/11/01




うそっこ吉原。長くなる予定です…。




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