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■ El dulce de noche ■
夜のお菓子





今日の三時のおやつの趣向はいつもと違っていた。

「とりっくおあとりーと!」
ラウンジのドアを開けて舌っ足らずな言葉を発するルフィ、ウソップ、チョッパー。
それに何やらよく分からない言葉を返しながら、サンジは奴らにお菓子を与える。
それが先ほどから何度も繰り返され、今ので四回目だ。

今日はなんでもどっかの記念日らしい。ことの発端は、ロビンが先週「あら、もうすぐハロウィンね」と言ったのがきっかけだった。
ナントカ人がどうたらと言っていたが、ゾロは例によって寝ていたので、何で仮装してお菓子をもらえるのかはさっぱり分からない。
そして、「お菓子をもらえる」と言うのに反応したのがルフィで、「仮装する」に反応したのがウソップだ。
おかげで今日のおやつはいつもと違う趣向だし、皆ウソップお手製のなにがしかを身につけている。
ここのところ続いていた凪の無聊に、暇に任せて作ったものだ。
ルフィは体中に包帯を巻いて頭からは釘やねじが生えている。
ウソップはマントと牙で吸血鬼。
チョッパーは角にそのまま翼のような装飾を施され、頭から黒い羽が生えてるようだ。顔にペイントもされ、本人いたく気に入っている。
最初吸血鬼の格好を用意されたのはサンジだったが、マントが調理の邪魔だと言ってウソップと交換し、針金で出来た羽としっぽを持つ悪魔になった。
ナミは耳としっぽをつけた猫娘で、これはゾロが見てもなかなかの出来だ。一見本物のように見えるそれをナミも気に入ったようで、服をそれに合わせてわざわざ着替えてきた。黒いミニスカートに黒いロングブーツ。昔泥棒をやってただけあって、身に付いたしなやかな身のこなしはまさに猫だ。
ロビンはとんがり帽子をかぶった魔女の格好。帽子もマントも派手な花柄のペイントが一面にされていて、世間一般の魔女とは少々違ったが、彼女にはよく似合っていた。ウソップ曰わく、普段落ち着いた色しか着ない彼女に、常々こんなサイケな色を着せたかったのだと言う。着せられた本人は最初落ち着かないようだったが、サンジのいつもより倍増の美辞麗句と、ルフィの「ロビン格好いいな!」の一言で落ち着いたらしい。
そして、もちろんゾロもつけられた。寝てる間に銀色の耳としっぽがついており、起きたら歯に牙を被せられた。狼男だそうだ。
爪のついた手袋もあったが、トレーニングの邪魔になるのでそれは拒否した。重りを持つ手が滑ってこの船を傷つけでもしたら何を言われるか。何より一番泣くのは準備したウソップだ。

「ほい、これで打ち止め」
何度目か分からない「とりっくおあとりーと」のあと、ラウンジのドア口でサンジが言った。
「えー!じゃあ肉!」
「アホか!今日の晩飯はハロウィン特製料理作ってやっから、それまで待て!」
言葉とともに蹴り出されて、船長はぼよよんと弾んだあと、ウソップたちとカボチャで遊び始めた。なにやら面妖な顔が彫られてるそれらは、大小様々で全て違う顔をしている。
食い物を玩具にするとコックが怒るだろうと思ったが、意外にもカボチャを用意したのは当のサンジだった。
この祭り用に売られる品種で、食用には適さないそうだ。奴が昔いたノースではこの祭りは盛んだったらしく、仮装の具体的な衣装を教えたのもサンジだった。
「種は捨てんなよー。それは保存食になるから」
「おーう」
だいぶ熱中してるウソップが顔も上げずに答える。
今奴が彫ってるのはだいぶ複雑な模様で、既に顔ですらない。一抱えもある巨大なそれには、隅っこに「HAPPY HALLOWEEN!」と書いてあった。

そんなのを横目で見つつ、黙々とトレーニングを続ける。今の海域は春島気候らしい。穏やかな暖かさの下、船は進む。進行方向から吹く風が、鍛錬で汗ばんだ身体に心地良かった。
五千回まで串団子を振り終え一息つこうとしたとき、背後から足音がした。
毎度の事ながら、つくづくタイミングのいい奴だ。
「ほいよ、ワンちゃんにレモンスカッシュだ」
犬じゃなくて狼なのだが。
振り向いた先にいたのは、スーツ姿ながらもいつもと少々趣の違うサンジの姿。羽としっぽのほか、耳がコウモリの羽のようになっていた。持ってきたトレイごと甲板に置く。そこには、冷たそうな氷を浮かべたグラスしかない。
「おやつは?」
憮然と聞く俺に、奴はやっぱりな、と言うような顔で笑ってみせる
「だってお前取りにこなかったじゃん」
いつもはこのトレイの上におやつも乗ってるのだ。
仕方なくゾロはグラスを手に取った。
「それにしてもよく出来てんなぁ、そのしっぽ。後ろから見たらホントに犬みたいだぜ」
犬じゃない。(実のところ、ゾロも結構この仮装を気に入っているのだ)
それでも、運動したあとの炭酸は旨くて、ゾロの機嫌をいくらか浮上させた。
「俺のおやつ」
しまった、ちょっと拗ねたような物言いになってしまった。
案の定、奴の顔はだらしなく崩れる。
「じゃ、とりっくおあとりーとって言ってみ?」
煙草をくゆらす奴の顔が気に喰わない。
「嫌だ」
「だろ?だからあげない」
ふん、と鼻を鳴らしたゾロに、サンジがすいと距離をつめた。
「お前さ、そもそもとりっくおあとりーとの意味知ってる?」
距離が近づいたせいで、煙草の匂いが鼻につく。ゾロは黙って首を振るに留めた。
どうしてコイツはこう。
「お菓子くれなきゃ」
グラスを持った腕を、右手で筋肉に沿ってなぞられる。
サンジのまとう雰囲気は、先刻とは既に違う。
「いたずらするよって言ってんの」
目と目があった。唇は笑んでるが目は笑っていない。右手は手まで来て、指をつまむように撫でていく。
自分の色を変える事に長けている。とっさに対応できない自分がいる。
夜の空気。
コイツが雄である事を。
「お前にだったらイタズラされちゃいたいけどね」
そう言って、今度こそ意地悪く笑った。

サンジが去ったあとの船尾で、俺は壁にもたれてそっとため息をついた。
未だに慣れない。
夜はいいのだ、こちらも準備が出来ている。
昼間にあれをやられると、ゾロの中の常識的な部分がどうにも過剰反応する。
あの色気が。
去り際、耳に落とされた夜、ラウンジに来いよと言った声がよみがえる。
「ゾーロー!」
不意に思考が破られた。カボチャに飽きたらしいルフィが階段を駆け上ってきたのだ。
巻かれた包帯は千切れたりなんなりでだいぶ解けている。
「あり、おやつ食っちゃったのかぁ」
グラスしか持たないゾロの手を見て残念そうに言う。
俺の分は最初っからねぇよ。
「ちぇー、サンジの奴、今日のおやつもう打ち止めだって言うんだ」
「いつもより何回も貰えたからよかったろうが」
不満そうな船長に苦笑しながら答える。
「おぅ!でももっと食べてぇ!」
だからどうしてそこで無駄に威張るんだ、お前って奴は。
「俺はろうぃんって好きだなー!ゾロはサンジに『とりっくおあとりーと』って言ったか?いっぱいお菓子くれるんだぞ!魔法の呪文だ!」
魔法の呪文、ねぇ。
先ほどのサンジの言葉を思い出して、今日訪れるだろう夜を思った。
質が悪いのは、自分が僅かに高揚してる事を自覚してるって事だ。
しししっと笑うルフィを横目に、俺は残り少ないレモンスカッシュを啜った。



           ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



サンジ特製の料理を食べたあと、仮装の衣装は全員分が宝箱に仕舞われた。ナミの発案だ。
「来年は違うの作るぜ?」と言うウソップに、「いいのよ、気に入ったんだから」と、ナミはいささか照れくさそうに言った。意外な態度にウソップは面食らいながらも同じように照れ、お得意のビッグマウスで誤魔化そうとしたが、失敗してるのは誰が見ても明らかだ。
皆が寝る時間になって、船上のそこかしこにあったカボチャの灯りは消された。船の火事は恐ろしいと、誰もが知っているからだ。
この船でマッチを持っているのは、コックであるサンジのみ。ナミも予備を持っているが、彼女ですらよほどの事がない限り使わない。
今火がついてるのは、ラウンジにある一つだけだ。風もないのにちらちら揺れて、ラウンジにいる二人───ゾロとサンジを照らしていた。それももうロウソクが残り少なくて、消えるのは時間の問題だ。
用意されたつまみはとっくに食べ終わり、酒も残り僅かだった。

「よし、と」
明日の仕込みが終わって、振り向いたサンジは僅かに笑みを浮かべていた。
いや、正確に言えば表情は確かに笑みを形作っているのに、その瞳は笑っていない。
昼と同じ、いや違う。
目に暗い光がある。
獲物を罠にかけようとしている目だ。
コイツがこういう笑い方をしているときはろくな事がない。

「Trick or treat?」

音もなく近づいて、テーブルに腰掛けたサンジが流暢な発音で言う。
先ほどまで水仕事をしていたせいで、その指は冷たく、そして少し濡れていた。
それが、ゾロの唇をなぞる。
ブランデーの瓶がゾロの口を塞ぐのにも構わず。
まるで、輪郭を確かめるように。ゆっくり。

「お前にはどっちも同じもんだろが。」

ちゅぽ、と音を立てて離れた瓶が、テーブルの上に置かれる。
ゾロとサンジしかいない空間に響いたその音は、二人の間の空気をいっそう濃密にしたような錯覚を引き起こした。
伏せていた目を上げ、挑発するように顎をあげる。

晒された首筋に、またサンジの冷たい指が触れた。

「へえ。わかってんじゃん。」

触れるか触れないか、つうとなぞられた感覚に背が打ち震えるのを必死で隠して、ゾロはサンジのネクタイに手を伸ばす。
この結び目を解くのにも随分慣れた。
首筋をなでていた左手が胸元まで降りてきて、そうかと思えばもう片方の指が口の中に入り込んでくる。
ひやりとした冷たさに、自分の口腔の熱さを知った。
視線を合わせたサンジの瞳の中にも、抑えきれない焔が見える。その熱が、この長く節くれ立った指に降りてくるのももうじきだ。
舌を柔らかくなでてくる指を一度引き抜いて、根本から舐めあげてやった。
手首を掴んだまま、最初は人差し指。
次に中指。
薬指はことさらゆっくりと。
さも愉快そうに細められた目から、視線は逸らさない。
人差し指と中指、2本まとめてしゃぶりついた。

「じゃ、いたずらされちゃうのと、ごちそうとして頂かれんの、どっちがイイよ?」

その様に興奮したのか、奴のより抑えられた声が鼓膜に注がれた。
そのまま耳の縁をなぞられる。奴の舌も熱い。
左手はまだシャツの中には入りこまず、もどかしい刺激を送ってくる。
俺の右手はといえば、解いたネクタイはそのままにシャツのボタンを外し始める。

口の中の奴の指は遠慮なく動き出した。
舌を挟み、上顎をくすぐり、歯列をなぞる。
舌の先を引っかかれて走った震えを笑われたのが気にくわなくて、その指を噛んでやった。
「どっちもごめんだな。」
指から離した舌で唇を舐めながら、間近にある顔に笑いかける。
目の前にいる雄の臭いをさせた男を、せいぜい挑発するように。

眇められた奴の目は凶暴な笑みを浮かべていた。

「ふうん…?そういう可愛くないことする奴には、お仕置きしなきゃな。」
ハ、上等。
「やれるもんならやってみろよ、ふにゃチン野郎が」
大した痛みもないだろう、俺の唾液で濡れそぼったその指で。
お前が俺に何を出来ると言うんだ。



多分二人とも、獣のように笑っていた。


           ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


ラウンジに満ちるのは、二人分の荒い息。

「お前さ、いい加減、お前の嫌がる顔が俺の好物だって気付けよ」

そう言うと、息も絶え絶えなくせに必死に睨まれた。
だから、そういう顔が好みなんだって。
あぁゾクゾクする。
おかげでさっきから俺の下半身はエレクトしっぱなしだ。

眉根を寄せて、顔を無理矢理俺に向けて、睨もうとする目は、しかし焦点が時折合わない。
目尻は赤く染まって、瞳は潤んで、そんな視線にいったい何の力がある。
ネクタイで縛った両手はなにかを耐えるように堅く握られている。
当然だ、散々いたぶってるのに、今まで一度もいかせてやってない。
肩でしか身体を支えられないゾロは随分苦しそうで、そろそろ俺も限界だ。
Jack O' Lantern の灯は既に消え、船窓から差し込む月明かりだけがゾロの身体を浮き上がらせる。
傷一つない背中は汗ばんで、舌を這わすとたまらないように身もだえた。
「な、ゾロ、イキてぇ?」
覆い被さるように身体を倒して、耳を舐めながら言ってみる。
根本をせき止めていた手にピクリとした反応が伝わる。
ぎゅっと目をつむったゾロが、しばし悶えたあと観念したように頷いた。
「じゃあさ、俺の挿れていい?」
背中を這わせた指を、尻のスリットに滑らせる。
「ゾロの、ここに」
先ほどまで丹念にほぐしたそこは、すでに柔らかく解けて俺の指を容易く迎え入れた。
「〜〜っ」
背をのけぞらせてゾロが耐える。また、あの目で睨まれた。
あぁヤベェ。
俺の息も上がる。
「なぁ、ゾロ」
自分でもどうかと思うほど声が甘い。
緩く出し入れする指が締め付けられて、早くここに繋がりたいと思う。
「手前ェは、どう、して、そう…!」
切れ切れにゾロが言う。
「なぁ、言ってよ」
「あぁ、くそ…っ、とっとと、挿れろっ」
叩きつけるように言われたその声とその顔にたまらなくなって、俺はすぐさま身を進めた。
「んんっ」
耐えきれないようにゾロが息を漏らした。
いくら慣らしたと言ってもかなりきついその締め付けに、暴発するのを必死でこらえる。
なんとか根本までいれて、ゾロの背中にピッタリくっついたら、イかせろ、と言われてこっちがイキそうになった。見れば羞恥で耳どころか首まで真っ赤で。
だからお前さ。
俺煽ってるって自覚持ってくれよ。
あんまり可愛くて、性器から手を離してやった。何度か揺さぶれば、びくびくと痙攣して精を吐き出す。
その顔がまたすんげぇセクシーで、思わず唇を貪った。ゾロも苦しげながらも応えてきて、緩く腰を動かすとまた前が元気になってくる。
「へへ、この辺でお仕置き終了な」
唇を合わせながら、ネクタイをほどく。体勢を入れ替えて、繋がったままゾロを仰向けにさせた。
「今度は一緒にイこうぜ」
音を立てて鼻先にキスすれば、ゾロの中がきゅうと締め付ける。それじゃ俺だけ先にイっちまうって。
「あぁクソ、可愛いことすんじゃねぇよ」
下からすくい上げるように深く口づけすると、ゾロの腕が背中に回る。
まだ痺れてるんだろう、おぼつかない手つき。
奴なら簡単に引きちぎれるはずのネクタイ。
コックである俺と同様、奴の大事な剣士の腕。
それを許されてるなんて、俺が自惚れるには十分な理由だ。


           ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


火照った身体に、ひやりと触れるものがある。
サンジは俺の身体を拭いたあと、おっくうがる俺に服を着せた。
だってお前、ほっとくと素っ裸で寝やがるだろ、と言う言葉は確かに正しいが、その原因作ったヤツに言われたかねぇな。
サンジとのセックスは、セックスと言うより戦いのようだ。
いつも負けてる気がするが。
女とのセックスとは違って、いつも主導権をとられちまう。最初は気張るんだが、最期はいっつもなし崩しだ。
それだけサンジに甘い自分を自覚している。

そのまま寝るつもりで目を閉じていると、サンジに鼻をつままれた。
「なにしやがる」
機嫌悪くにらみつけた俺をものともせず、煙草をくわえたサンジは機嫌良く笑っている。
先ほどまでの淫蕩な空気は欠片もなくて、でもその纏う甘ったるさに、俺は尻がむず痒くなった。
「なぁ、Trick or treatって言ってみ?」
またそれか。
僅かに眉をしかめた俺に、なー言えよー、と耳たぶを撫でながら言ってくる。
事が終わったあとのコイツは甘えモードになる事が多く、それをまんざらでもないと思ってる自分を終わってると思う。

「…Trick or treat」

「Happy halloween!」

言うが早いか、口の中に広がる苦みのある甘さ。とろりと溶けるそれは、酒の味がきいて自分好みだ。
「なんだコレ」
「言えたごほーび。ウィスキーボンボン」
床に座るサンジの後ろを見れば、皿の上にはまだ何個かのっている。
まだ耳を撫でてるサンジの顔が近づいて、額にキスされた。
「お前用のトリートだよ。せっかく作ったのに、お前参加しねぇんだもん」
へぇ。
ちょっとすねたような顔のサンジをまじまじと見る。
まあ確かに、こんなに酒のきいたボンボン、俺用以外の何物でもねぇ。

魔法の呪文。

昼のルフィの言葉が思い出される。
俺でも使える魔法の呪文だったらしい。

「もう一個くれ」
「気にいったか?」
俺の口に入れながらサンジが聞く。
頷くと満足そうに笑った、その顔を崩したくて。
ボンボンを運んできた指ごとくわえた。






■ end.
2005/10/14





ハロウィンネタです。
タイトルはスペイン語で。

ウチのゾロはサンジの事が大好きです(開き直り)。

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